traveler's tale

旅をしています。知ったこと、感じたことを、徒然なるままに。

バンコクで働くお姉さん達 【海外ひとり旅:初日】

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タクシーの運転手は目的地がわからないらしく、何度も降りて、そこらを歩いている人に道を訪ねている。

行き先は、僕が拙い英語で伝えた日本人宿。

 

ここはタイのバンコク

 

2016年10月、僕は15年働いていた会社を辞めてバンコクに来ていた。理由は特に無し。しいて言えばながらく働いていた自分へのご褒美か。

日本では生真面目な性格で、自分で言うのは恥ずかしいけど、仕事はまあまあ出来た方だし、特に会社への不満も無かった。

だから僕が「辞めます。」って言ったときもみんなから冗談だと思われたし、本気だとわかってからは「どこかの会社に引きぬかれたのか」「転職先はどこ?」って色んな人に聞かれた。その度に「何も決めてない。」「無職になる。」って答えてたんだけど、みんな信じてくれなかったよ。

そんな感じだったので、誰にも言わずに来た。

 

タイには20歳の頃に来たことがあったけど、実に10年ぶりくらい。

空港から電車、タクシーを乗り継いできてるけど、今のところは昔と変わってない気がする。強いて言えば、タクシーの運ちゃんがちゃんとメーターを使うようになってたくらいかな。

ただ、タイ人の適当さは相変わらずだった。乗車するときに宿の場所と名前を告げたら「OK、乗りな。」って間髪入れずに答えてたのに・・・

決局、30分くらい迷って宿に到着。

 

ここの日本人宿はマンションの1室をドミトリーとして使っていて、2部屋のうち1部屋が男子ドミ、もう一つが女子ドミになっていた。

10年ぶりの一人旅行で、10年ぶりのドミトリー。

ちょっと緊張しながら部屋にはいる。

「こんにちはー」

すでに日本人のお客さんが何人かいて、みんな優しく挨拶をしてくれる。

ああ、良かった。初日は日本人宿にしておいて。そんなことを思いながら宿の使い方なんかを一通り聞いていたらお腹がすいてきた。もう夜の9時だ。

宿のオーナーさんにオススメを聞いたら、近くのレストランを教えてくれたのでそこへ行ってみることにする。

が、着いたらもう時間が遅かったのか、すでにお店を片付けていた。

困りながらも、さっき歩いてくる途中にも屋台があったな、と思い引き返す。戻ってみるとそこはまだ明かりが付いてる。よかった。

だいぶローカルな香りのする屋台だった。料理を作ってるのも野外だし、お皿は汚れた水が入ったバケツで洗ってるし、その横をネズミが走っているのが見えた。

一瞬躊躇してあたりを見回すと、2人のきれいな日本人女性が料理をつまみにビールを飲んでいた。

思わず「このお店大丈夫ですか?」って聞いちゃった。そしたら「美味しいですよ。」って言ってくれたので安心して近くの席につく。

すぐにおばちゃんがメニューを渡してくれたんだけど、さっぱり読めない。・・・ってこれタイ語じゃん!

おばちゃんと拙い英語でなんとかコミュニケーションを取りなんとか1品頼む。

料理を待っているとさっきのお姉さんが話しかけてくれた。

「すぐそこの日本人宿に泊まってるの?」って聞かれたので「今日、来たばっかりなんすよー。だからまだタイのこと全然わからなくて。どっかオススメありますか?」なんて聞いていたら

「じゃあ一緒にこっちで飲みましょうよ」って言ってくれた。

おお。

せっかくなのでご一緒させていただく。

 

軽い自己紹介をしながら「何日くらいタイにいるのか」「いままで観光した場所」なんかを聞いてみたら、意外な答えが返ってきた。

「私達、旅行者じゃなくて働いているんだよ。」

詳しく聞くと、彼女たちは先の日本人宿に泊まっているわけではなく、同じマンションの別フロアに住んでいるんだそう。そしてそのマンションには他にも色んな日本人が住んでいるらしい。へー。

「仕事は何してるんですか?」

「コールセンター。日本の企業のコールセンターが今けっこうバンコクにあって、そこには日本人がたくさん働いてるんだよ。」

知らなかった。

例えば、電化製品なんかに不具合があった時、企業のコールセンターに電話をかけると思うんだけど、それは実はタイに繋がっていてその対応をしているのがこのお姉さん達なんだって。

企業としては人件費が日本の1/3の賃金で済むし、(ちなみにお姉さん達の給料は3万バーツ:約9万円って言ってた)働いてる日本人もタイの物価ではそこそこの暮らしができるから、今どんどん日本のコールセンターがタイに進出してるらしい。

「応募したら即採用だよ。働けば?」

海外初日にリクルートされてしまった。

まだ旅行を続けたかったのでお断りさせていただいたけど、今まで生きていて『海外で働く』なんていう選択肢が無かったので、ちょっとした衝撃だった。

何よりも目の前にいるお姉さん達、見た目が全然普通なんだよね。

とくにアジア特有のゆるい服装をしているわけでもなく、オシャレできちんと化粧もしていて。丸の内で働いてますっていわれた方が納得できるくらい、東南アジアのイメージとかけ離れていた。

そして話しを聞いていても、特に特別なことじゃなく、働いている場所がたまたま新宿じゃなくてバンコクだった。くらいのノリ。

そんなお姉さんたちがドブネズミが足元を走り回る屋台で、普通に飯を食ってる。

こんな世界もあるのかー。

『海外で働く』ってもっと特別なことで、一部の選ばれた人達しかやってなくて、自分とは無縁の世界だと思ってた。

でも、現実はバイト感覚でタイに来てるひともいっぱいいてこうして実際バンコクの裏路地で出会ってる。

全然知らない世界だった。

その後は、タイでの暮らしや、働いてる環境なんかを色々聞いたり、逆に日本の事を聞かれたりなんかして楽しく飯を食い、お姉さん達と別れて一人で戻る。

 

宿に戻るともう旅行者たちは寝ていた。僕はなんだか眠れなくって共有スペースにしばらくいた。

日本で仕事を辞めて、ふらっと来た海外。そして偶然だけどいきなり知らない世界を知れた。っていうか、自分の知ってることなんて本当に本当にミジンコくらい小さい事なのかも。

日本にいるとそれに気づかないだけで。世の中は自分が思っているよりも大きいんだな。そしてこれから何日海外にいるかも決めずに出てきたけど、こういう事にたくさん出会うんだろうな。なんて思ってたらだんだん眠くなってきた。

 

そんな海外ひとり旅初日の夜。